西洋にも、日本に負けないほど深く、そして長い「夢占い」の歴史があります。ただ、西洋における夢占いは、時代によって「神の託宣(預言)」から「悪魔の誘惑」、そして「深層心理の暗号」へと、その位置づけがダイナミックに変化してきたのが最大の特徴です。
西洋の夢占いの歴史と、そのアプローチの変遷をいくつかご紹介します。
1. 古代:聖書の世界と「神からの暗号」
古代の西洋(および中近東)において、夢は日本と同じく「神や超自然的な存在からのメッセージ」でした。
特に有名なのが、旧約聖書に登場するヨセフの夢解きです。

エジプト王(ファラオ)の夢を解き明かすヨセフ. Source: duncan1890 / Getty Images
【ファラオが見た「7頭の牛」の夢】
エジプトの王(ファラオ)が、「ナイル川から上がってきた美しい7頭の肥えた牛を、後から上がってきた醜い7頭の痩せた牛が食べてしまう」という奇妙な夢を見ました。
誰もこれを解き明かせない中、奴隷の身分だったヨセフが夢枕の意図をこう占いました。
「肥えた牛は『7年間の大豊作』、痩せた牛は『その後に来る7年間の大飢饉』を表しています。今すぐ対策を!」
この夢占いのおかげでエジプトは飢饉を生き延び、ヨセフは一躍、国の最高大臣に登り詰めました。
このように、古代の西洋では「夢に現れたシンボル(牛=豊作/飢饉)」を読み解くことが、国家の運命を左右する重要な政治技術でした。
2. ギリシャ・ローマ時代:世界初の「夢占いマニュアル」
2世紀の古代ギリシャには、アルテミドロスという夢占いのプロフェッショナルがいました。彼が書いた『ワンダフルな夢の解釈(原題:Oneirocritica)』は、人類史上初の本格的な夢占い事典と言われています。

<アルテミドロス『夢判断』の古版本. Source: www.nlm.nih.gov
アルテミドロスの何が凄かったかというと、彼は単にオカルトとして夢を捉えるのではなく、何千人もの人々から「どんな夢を見て、その後に何が起きたか」のデータを集めて統計を取った点です。彼の本には、現代の夢占いにも通じる以下のようなシンボルの解釈が載っています。
- 歯が抜ける夢: 身内の誰かが亡くなる、あるいは財産を失う兆候(現代の夢占いでも定番の解釈です)。
- 空を飛ぶ夢: 地位の高い人であれば「さらなる出世」を意味するが、奴隷が見た場合は「現実逃避」や「死」を意味する。
彼は、「同じ夢でも、それを見た人の職業や身分によって意味が変わる」という非常に合理的なルールを提唱していました。
3. 中世:キリスト教による「夢の弾圧」
中世ヨーロッパに入ると、キリスト教の教会が権力を持つようになり、夢占いの風向きがガラリと変わります。
「神のお告げを受け取っていいのは、聖職者(教会)だけである。一般人が夢でメッセージを受け取るなど言語道断。それは悪魔が見せている幻覚(誘惑)だ」
こうして、夢占いを行うことは「異端」や「魔術」とみなされるようになり、夢を占う文化は表舞台から隠され、地下へと潜ることになります。この時代、西洋人にとって夢は「未来の予言」ではなく、「悪魔に魂を盗まれないように警戒すべき危険な領域」になってしまったのです。
4. 近代:フロイトとユングによる「科学への脱皮」
19世紀末、この「悪魔の幻覚」あるいは「ただのオカルト」として見捨てられていた夢を、心理学(科学)の最前線に引き戻したのが、精神分析の創始者ジークムント・フロイトです。
1899年(出版は1900年)、フロイトは『夢判断(The Interpretation of Dreams)』という本を出版しました。
- フロイトのアプローチ:
「夢は、理性が眠っている間に、私たちが普段抑圧している『無意識の願望』が暗号化されて現れたものである」
つまり、夢占いとは神の予言を当てるものではなく、「自分の心の中の隠された本音を解読する作業」へと再定義されたのです。
- ユングのアプローチ:
フロイトの弟子であるカール・ユングは、さらに一歩進めました。「夢には、人類が共通して持っている神話や伝説のような記憶のパターン(普遍的無意識)が現れる」とし、夢に出てくるモンスターや不思議な人物を、心のバランスを取るための「自己からのメッセージ(シンボル)」として読み解きました。
まとめ:日本と西洋の「夢占い」の違い
こうして比較してみると、日本と西洋の夢占いはアプローチが少し異なります。
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日本の夢占い(古代〜中世) |
西洋の夢占い(現代の心理学へ) |
| 夢の捉え方 |
現実と地続きの「交渉の場」(売買したり、言霊で書き換え可能) |
自分の内面を映す「鏡・暗号」(深層心理のメッセージを分析する) |
| 目的 |
未来の運命を変える・回避する。 |
本当の自分を知る・心のバランスを取る。 |
西洋の夢占いは、一度キリスト教によって否定されたからこそ、のちに「心理学」という非常にロジカルな形で花開くことになりました。現代の私たちがネットで「◯◯の夢 意味」と検索して出てくる夢占いの多くは、この古代ギリシャのアルテミドロスの統計と、フロイト・ユングの心理学がミックスされたものがベースになっています。
西洋の「夢を自分の心の暗号として解読する」というアプローチ、日本の「運命をハッキングする」アプローチと比べてみて、どちらがしっくりきますか?